2017年3月26日 (日)

認知症の問題行動が出現したら確認しておきたいこと

認知症患者さんを介護するときに、介護者を悩ますのが問題行動。

 

もの忘れだけの患者さんと、周辺症状を伴った患者さんの介護では、その大変さが全く異なります。

 

問題行動(行動心理症状やBPSDとも呼ばれる)には、暴力、暴言、徘徊、帰宅願望、怒りっぽいといった激しい症状から、うつ、拒食、不安といったものまであり、その対応方法は患者さん事に異なります。

 

問題行動の対応方法については、以前にもお書きしましたが、今回は、問題行動が出現した時に必ず確認しておきたいことをお伝えします。

 

認知症の問題行動対策 ①薬物編

 

認知症の問題行動対策 ②対応編

 

問題行動は、患者さん自身に訴えたいことがあるけれど、それが上手く表現できないときに起こりやすい傾向があります。


ですから、問題行動が出現した場合には、身体や環境に異常が起こっていないか確認する必要があります。


・身体の異常
便秘、痛み、肺炎などの感染症などの異常が出現していることがあります。病院で異常がないか診てもらいましょう。

・薬の影響
新しく始めた薬や中断した薬がないか確認しましょう。

・不適切な環境
暑すぎたり、寒すぎたり、うるさすぎたりしていないか確認しましょう。

・不適切な介護
だます、できる事をさせない、子ども扱いをする、急がせる、無視する、無理強いをする、非難するなどの扱いをしていないか確認しましょう。


~対策~

・身体の異常や薬の影響
病院に相談しましょう。実際に、ある日を境に問題行動が出現した患者さんが、実は肺炎だったということもありましたし、新しく始めた薬をやめたら治まったということもありました。

・不適切な環境
室温の調節も大切ですが、模様替えや引っ越しを出来る限りしない、引っ越すときは、使い慣れた家具を持っていくというのも方法です。

・不適切な介護
介護の状態をもう一度振り返ってみてください。介護をしているあなたに問題がなくても、他の介護者に問題があるかもしれません。
介護者の負担軽減対策が必要になります。ケアマネージャーに相談しましょう。

2017年2月21日 (火)

徘徊は命の危機

 2014年12月に、要介護4の91歳男性の認知症患さんが徘徊し、駅構内で電車にはねられて死亡する事故が起こりました。

 これに対してJR東海は損害賠償訴訟をおこし、一審では、家族に720万円全額の支払いを、二審では、長男に対する請求を退け、妻にのみ損害賠償約360万円の支払いを命じました。

 最高裁では、長男と妻について損害賠償義務を否定され、支払うことはありませんでしたが、認知症介護の問題に一石を投じる裁判となりました。


 徘徊による行方不明者は2015年に10322人で、死亡者は388人、所在不明者は151人となっています。

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警視庁発表


 また、ある研究において徘徊者の死亡率が高いことが示され、翌日の生存率は約6割、5日以降の生存率は0となっています。

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桜美林大老年学総合研究所 鈴木隆雄

  
 認知症サポーターや、
徘徊高齢者SOSネットワークという、徘徊者を地域で見守ろうという活動も広まりつつあります。

 街中で、季節に合った服装をしていない、靴を履いていない、うろうろしているなどの不自然な行動をとる高齢者を見かけた場合、徘徊である可能性があります。

 前述のとおり、徘徊者の発見が遅れると生存率が大きく下がってしまいます。そのため、こういった不自然な行動をとる高齢者を見かけたら積極的に声掛けを行ってください。

2017年2月20日 (月)

改正道路交通法

高齢者の自動車事故に関する報道が増えています。

 交通事故のうち、高齢者が運転する車がかかわる事故は20%ですが、これは10年前の2倍の割合となっています。


 数でいうと事故総数は平成18年と27年を比較すると、74287件⇒34274件と半減していますが、高齢者の事故は約8600件⇒7300件と減少幅はわずかです。

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 そのため、高齢ドライバーにおける事故対策として、平成29年3月12日から道路交通法が改正されます。


 75歳以上の方が運転免許の更新を行うときに、認知機能検査が行われますが、この時に「認知症の恐れがある」とされた場合、免許を更新するためには臨時適性検査を受けるか、医師の作成した診断書を提出することになりました。


 また、75歳以上の方が「認知機能が低下した場合に行われやすい一定の違反行為」をした場合、臨時の認知機能検査を受けることとなります。

 この、一定の違反行為とは、認知機能の低下によって犯しやすくなるといわれるもので、信号無視、逆走、一時停止違反、右左折時の違反など、18の行為があげられます。

 臨時認知機能検査で「認知症の恐れがある」とされた場合は、免許更新時と同様に、臨時適性検査を受けるか、医師の作成した診断書を提出することになりました。


 今回の制度の改正によって、運転免許取り消しとなる高齢者が増加すると考えられます。


 しかし、公共交通機関が発達している都市部では大きな問題はないと思われますが、そうでない地方では日常生活に多大な影響があると考えられ、代替の交通手段などについての検討が必要であると言われています。


 また、現在もの忘れ外来は、すでに多くの医療機関で込み合っており、診断書作成までに時間がかかってしまうことも懸念されています。


 高齢者の事故を防止するという点では有効であると思いますが、改正によって新たな課題が生まれたともいえるでしょう。



警視庁ホームページ
高齢運転者に関する交通安全対策の規定の整備について(平成29年3月12日施行)
(http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/koshu/koureisha_anzen.html)

2016年9月26日 (月)

認知機能を低下させるかもしれない薬

風邪薬を飲むと、眠気がでたり、集中力がさがるといった経験のある方は少なくないと思います。

その状態で作業をすると、いつもよりミスが増えるのは当然ですね。


これが、高齢者であったらどうでしょうか。

認知機能に余裕のある高齢者であれば大丈夫かもしれませんが、そうでない場合は、日常生活でもミスが目立って、認知症になってしまったと思われるでしょう。


風邪薬や鼻水止めの成分には、抗ヒスタミン作用があるのですが、これが眠気の元となっています。

また、これらの薬には抗コリン作用というものもあり、これが認知機能を低下させる原因となります。


コリンというのは、脳内の神経伝達物質で、脳細胞が信号をやり取りするために必要な物質ですが、認知症では、コリンが減少しているといわれています。


主要なアルツハイマー病の治療薬(アリセプト、レミニール、イクセロン、リバスタッチ)は、脳内のコリンを増やすことによって認知機能を高めます。

しかし、抗コリン薬を飲むと、逆のことが起こり、認知機能が低下してしまいます。


また、抗コリン作用のある薬を飲み続けていると、認知症になりやすいという報告も出ています。
(Gray, SL. et al. 2015. Cumulative use of strong anticholinergics and incident dementia: a prospective cohort study. JAMA. 175(3):401-7.)


抗コリン作用のある薬は、以下のとおりです(リストは抗コリン作用のある薬の一部です)

  • 古いタイプのアレルギー薬(第一世代抗ヒスタミン薬)
  • 主要な頻尿(過活動性膀胱)の薬
  • 抗うつ薬の一部(三環系抗うつ薬)
  • 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)
  • 抗パーキンソン病薬の一部(ビペリデンなど)



高齢者でこれらの薬を内服している場合、本当に必要か、他の薬に変更できないか検討しても良いと思われます。

2016年5月 2日 (月)

糖尿病による認知症(糖尿病性認知症)

認知症の原因で最も多いのは、アルツハイマー病ですが、最近では糖尿病に関連した認知症が注目されています。

糖尿病の患者さんはアルツハイマー病を発症しやすいということは、以前から言われていましたが、糖尿病の患者さんのなかに、アルツハイマー病ではないと考えられる認知症を発症をする可能性があることが分かってきました。


これを糖尿病性認知症と最近呼び始めています。


糖尿病性認知症は、アルツハイマー病と比較して、記憶が保たれやすいが注意力が低い、進行は遅いなどの特徴があります。


検査においても、海馬の萎縮が目立たない、アミロイド(アルツハイマー病の原因物質)が脳に蓄積していない、といった特徴があります。


糖尿病性認知症と考えられる患者さんは、血糖値が高いことが多いのですが、血糖を適切な値にすることによって認知機能のある程度の改善が見込まれます。


ただし、低血糖になると、脳細胞が障害されてしまうため、かえって認知症を進行させてしまう危険性がありますので、血糖値を下げるときは慎重に行う必要があります。


出典
羽生 春夫, 深澤 雷太.(2014).尿病性認知症.日本内科学会雑誌  103:1831~1838.

2016年2月15日 (月)

認知機能評価には長谷川式やMMSEだけでなく、日常生活の変化も大切。

もの忘れについて少し興味があるという方は、長谷川式やMMSEといった、簡易的なもの忘れの評価法を知っている方も少なくありません。

 

この二つの検査は、国内で広く使われており、若干の違いはありますがおおむね同じ検査です。

 

脳の様々な機能が評価できますが、コンパクトで短時間ですむという特徴があり、日常の診療でも良く使われています。

 

しかし、外来診療を行っていると、MMSEの点数は低下していないけれど、以前より認知症が進行したと感じる介護者の方が比較的良くみられます。

 

特に多いのが、テレビのリモコンや家電の使い方が分からなくなったとか、切符の買い方が分からなくなったけれど、点数は下がっていないという例です。

 

私は、MMSEに複雑なものの使い方を評価する項目がなく、うまく認知機能を反映できないために、このような乖離が起こるのではないかと考えています。

 

そのため、私は外来でMMSEを行った後に、介護者の方に日常生活で出来なくなったことが増えていないか尋ねるようにし、検査で反映されない部分を補っています。

 

もし、これらの簡易的な認知機能テストであまり点数の低下がなくても、違和感を感じることがあれば、いつからどんなことができなくなったか記録しておくと、認知症の進行の評価に役立つと思います。

MMSEについてはこちらを参照してください。

2016年1月21日 (木)

アルツハイマー病と喫煙

喫煙が健康に良くないということは、いまさら説明する必要のないことですが、認知機能にとっても良くないということが言われています。

かつて、喫煙はアルツハイマー病を予防するという論文が出されたこともあり、喫煙の数少ない利点だとされたこともありましたが、近年の研究では否定されています。

古い報告ですが(Lancet. 1998 Jun 20;351(9119):1840-3.)、これによると喫煙によってアルツハイマー病になるリスクは2倍程度になるといわれています。

また、喫煙は動脈硬化のリスクにもなるため、脳梗塞によって認知症になる危険性も増加するのではないかと思われます。

認知症予防のために、喫煙者の方は禁煙をお勧めします。


ただ、禁煙の成功率は低く、自力での成功率は10%を切るとも言われています(1年間の禁煙)。

現在は、保険診療で禁煙治療を受けることも可能ですので(当院でもできます)、禁煙補助薬を飲みながら禁煙する方が現実的かもしれません。

2015年11月10日 (火)

認知症患者さんが怒りっぽい BPSDへの対策

認知症患者さんが怒りっぽい、大騒ぎをするから、何とかしてほしい。

というご家族からの訴えは大変多くみられます。

認知症に伴って出現したこれらの問題行動はBPSDと言われています。


聞き流すことの大切さ

でも、書きましたが、BPSD(問題行動)は対応方法によって改善することが比較的多くみられます。



私見ですが、BPSD(問題行動)への対応方法は、2種類に分けられると考えています。

①薬物療養

②介護者の対応改善


です。


どちらかだけでもうまくいくこともありますが、どちらも必要であることが多い様です。



①薬物療法について

認知症の治療薬であるメマンチン(メマリー)や、抗精神病薬(リスパダール、セロクエルなど)、抑肝散(漢方薬)などにより改善が見られます。

副作用が少ない順でいくと、抑肝散→メマンチン→抗精神病薬の順となりますが、効果はその逆となります。

実際のところ、抑肝散だけで改善することは少なく、メマンチンを使ってみて、不十分であれば抑肝散を併用するか、症状が強ければ抗精神病薬を用いることになります。

副作用の観点から、抗精神病薬はできるだけ用いたくはないのですが、

介護負担を軽減することも認知症治療の一環


であると考えているので、介護者の負担度合いを聞きながら、必要に応じて投与します。

ただし、薬物療法だけで症状を完全にコントロールすることは困難です。



②介護者の対応改善

よくある事ですが、物忘れによって同じことを何度も言う、同じ失敗をするなどの問題が出現すると、介護者はそれについて注意して改善を求めようとします。

しかし、認知機能が低下しているために、患者さんは改善することができません。

すると、

失敗する

注意される

患者さんが嫌な気持ちになる

注意された内容は覚えていないけれど、イライラだけは残る

喧嘩になる

ということが起こります。

この流れを断ち切れる場所が一か所だけあります。

それは、

失敗する

注意される

患者さんが嫌な気持ちになる

注意された内容は覚えていないけれど、イライラだけは残る

喧嘩になる

注意されなければいいわけです。

注意されなければいいというのは、注意されないように患者さんが気を付けるという意味ではありません。

注意したくなっても、注意しないのです。

ちなみに、注意しても注意された内容は忘れてしまうので、あまり効果はありません。

もし、効果があれば、同じことを何度も注意する事にはならないはずです。


さて、「注意することをこらえる方法」について、お話します。


まず、注意したとしても、それが実ることは殆どないということを覚えておいてください。

認知症患者さんは、残念ながら認知機能は日を経るごとに低下していきます。

ということは、


今日より認知機能が良い日は来ない


ということです。

ですから、出来ないことや失敗について、注意を促しても、実らないどころか注意を促さなければならない場面がどんどん増えていきます。

ですから、


『出来ないことを注意する』⇒『できる事をほめる』


という発想の転換が必要になります。

そして、出来ないことをやらせるのではなく、できる事をやってもらうようにします。


同じことを何度も言う、間違ったことや勘違いをすることについてですが、悪い言い方になりますが、まともに聞いてはいけません。

真面目に聞くと、うんざりしたり、訂正したくなるのが心情です。

ですから、


ちゃんと聞いているふりをして、適当に聞き流してしまうことも必要です。


間違ったことや勘違いについても、よほど害がない限り、訂正する必要はありません。

ベテランになると、昔の自慢話などを上手に引き出して、気分よく喋らせることができるようになることもあるようです。もはや達人の域ですね。

ただ、介護者だって人間なので、我慢の限界というものがあります。


介護者が上手に対応するためには余裕が必要です。


その余裕を作り出すために、日中預かってくれるデイサービスや、短期の宿泊サービスであるショートステイなどを利用するのも大切です。

また、薬の力を借りることも大切な方法です。

夜、起きだしてきて困るので、寝る前だけ薬を使って介護負担の軽減を行うこともありますし、もっと激しい場合には日中から薬を使うこともあります。

薬によって完璧にコントロールすることは不可能ですが、症状を緩和することによって介護負担を軽減することは可能です。


介護負担が大きいと思ったら、主治医やケアマネージャーに相談すると、解決の糸口が見つかるかもしれません。

http://kumeiin.jp/

2015年10月27日 (火)

アルツハイマー病の自覚症状

アルツハイマー病患者さんに、「ものわすれの自覚症状はない」とされています。


実際に、ある程度進行した患者さんでは、自覚症状は乏しいと思われますし、アルツハイマー病発症の2~3年前から、自覚症状がなくなるという報告もあります。
(Robert S Wilson, Patricia A Boyle, Lei Yu, et al. Temporal course and pathologic basis of unawareness of memory loss in dementia.Neurology. 2015 Aug 26; pii: 10.1212/WNL.0000000000001935.)

また、自身の経験からも、アルツハイマー病に自覚症状がないとするのは、おおむね正しいと考えられます。


しかし、ここからは私見ですが、物忘れの自覚症状があるからアルツハイマー病ではないとするのは、正しくないのではと思います。



経験した中にこんな患者さんがいました。




家族も本人も、もの忘れが気になって受診しました。

確かに軽い物忘れがありましたし、正常とするに不安が残ったために、精密検査を行いました。

脳のMRIでは軽度ですが海馬の萎縮があり、脳血流シンチグラフィではアルツハイマー病に特徴的な血流の低下が認められました。

診断として、軽度認知障害(MCI)とするのですが、実際にはアルツハイマー病のごく初期であると考えられました。




「私は、物忘れがある」ということを数年前から訴えていたとのことです。

受診時にも、「もの忘れくらいありますよ」という具合でした。

実際に明らかな認知機能の低下が認められ、アルツハイマー病と診断できました。

1年2年とたつごとに、認知機能の低下は目立ってきましたが、本人の「もの忘れはある」という訴えは変わりませんでした。

しかし、よくよくみてみると、その訴えに深刻さはなく、患者さん本人は、本当にそれで困っているという様子はありませんでした。



①の患者さんは、病状がきわめて軽かったために、物忘れの自覚があったと考えられます。

この時点で来院され、治療が開始できたのは、認知機能の維持を行う上で良かったと考えられました。



②の患者さんは、実際には自覚はなく、ただ、口癖のように「もの忘れはある」と言っていたようでした。

訴えに深刻さがなく、物忘れによって困った場面を具体的に挙げられなかった
ところからも、そう考えられました。



アルツハイマー病には自覚症状がないというのは、大筋では正しいですが、これらの経験から、自覚症状がないからアルツハイマー病ではないとするのは少々危険なのではないかと思います。

2015年9月24日 (木)

おとなしいせん妄にご注意を

せん妄というと、わけもわからず大騒ぎするという印象をお持ちの方も多いと思います。

実際、それは間違ってはいないのですが、逆におとなしくなってしまうせん妄もあります

せん妄についてはこちらも参照してください。


せん妄というのは、ひどく寝ぼけた状態に近いと思っていただければよいと思います。

多くは、入院することによって引き起こされ、大騒ぎをしたり、点滴を引き抜いたり、暴力的になったりすることが多いです。

しかし、なかにはボーっとして、反応が乏しくなったり、無気力になったりということもあります。


こういったおとなしいせん妄は、一見せん妄に見えないので、入院してずいぶんおとなしくなったなという程度にしか思われないことも多い様です。

しかし、そのまま放置しておくと、ご飯を食べなかったり、リハビリが上手くできなかったりと、やはり寝たきりの危険性が高くなります。

ですから、入院して、ずいぶんおとなしくなった、無口になった、気力がなくなったなんていうことがあったら、せん妄になっている可能性を考えてみてください。

«MRIでは認知症の発症予測はできない。

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