抗アミロイドβ抗体 レカネマブ(レケンビ)とドナネマブ(ケサンラ)
アルツハイマー病に対する新たな治療薬であるレカネマブ(レケンビ)が2023年12月に、ドナネマブ(ケサンラ)が2024年11月に発売となりました。
これらの薬は、従来用いられてきたドネペジル(アリセプト)などのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤と違い、アルツハイマー病を引き起こす原因物質の一つであるアミロイドβを脳内から除去する効果が認められています。
ついに、アルツハイマー病を根本から治療する時代の入り口に入ったという感じで、専門医の間では、その臨床的な効果について期待を寄せているところではあります。
ただし、抗アミロイドβ抗体についてはいくつかの問題があります。
①アルツハイマー病に由来する軽度認知障害または軽度のアルツハイマー病が投与対象
きわめて早期での診断が必要ということになります。
MMSEという長谷川式認知症スケールに似た検査において、30点満点中
・レカネマブでは22点~30点
・ドナネマブでは20点~28点
の得点が必要となります。
通常、MMSEで28点から30点の場合、年齢や間違えた場所にもよりますが、ほぼ正常と判断される可能性があります。
詳細な症状の聞き取りや、減点された場所の特長を考慮し、判断していく必要があり、専門性が要求されます。
また、双方ともCDR(Clinical Dementia Rating)が0.5~1(0=正常 0.5=軽度認知障害 1=軽度 2=中等度 3=重度)である必要があり、これは日常生活において、物忘れがあっても概ね自立しているということになります。
②脳の浮腫(むくみ)や出血の副作用
抗アミロイドβ抗体の投与によって、ARIA( amyloid-related imaging abnormalities)という副作用が認められることがあります。
ARIAには2種類存在し
浮腫をきたす ARIA-E
出血をきたす ARIA-H
があります。ARIA-HにはARIA-Eが合併しやすい傾向があります。
なお、これらの発症頻度は遺伝子型(Apo E)によりますが、おおむね5~15%と考えられています。
投与開始6か月以内に多いため、投与開始から6か月までは、投与できる病院にかなりの制約があり、また、定期的なMRIの実施が必要となります。
6か月を超えれば、近隣の医療機関で実施できますが、現在のところ、実施できる施設はまだまだ少ない状況です。
③投与までのハードルが高い
抗アミロイドβ抗体を投与するためにはきわめて初期の段階でアルツハイマー病を疑わなければならないだけでなく、脳内にアミロイドβが蓄積していることを証明する必要があります。
方法としては2種類あり、
・アミロイドPET
・髄液検査
いずれかとなります(病院によっては両方実施のところもあります)。
アミロイドPETは非常に高額な検査でこれだけで25万円くらいかかります。保険適応であるので、そのまま請求されるわけではありませんが、決して安いものではありません。
髄液検査はアミロイドPETに比べると低額ですが、背中から針を刺すため、痛みを伴います。
これらの検査の結果、脳にアミロイドβが蓄積していると判断されれば、投与が可能となる可能性があります。
④高額な費用
抗アミロイドβ抗体は薬が非常に高額であり、また、投与期間も
レカネマブで18か月
ドナネマブで12から18か月
と長期に及びます。
年間の薬価は300万円となりますが、保険適応なので、その割合に応じて支払うこととなります。
⑤通院頻度
点滴で投与するため、医療機関での実施が必要となります。
・レカネマブは2週間に1回
・ドナネマブは4週間に1回
の頻度で通院となります。
点滴で投与するため、すくなくとも半日仕事となることが予測されます。
患者さん一人での通院は難しいため、付き添いの方が必要となります。
⑥効果
抗アミロイドβ抗体の進行抑制効果は、27~29%と考えられます。
レケンビの場合、18か月投与すると6か月分の進行が遅くなる計算です。
これをすごい効果と捉えるか、費用や手間に比して乏しいとするかは、人それぞれです。
現在のところ、当院では抗アミロイドβ抗体の投与は行っておりませんが、適応となりそうな患者さんには、適宜ご案内しております。
抗アミロイドβ抗体の投与が適応となるかどうかにかかわらず、早期の診断・早期の治療がより良い結果をもたらすことが期待できるので、早めの受診をお勧めします。
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