認知症患者さんが怒りっぽい BPSDへの対策
認知症患者さんが怒りっぽい、大騒ぎをするから、何とかしてほしい。
というご家族からの訴えは大変多くみられます。
認知症に伴って出現したこれらの問題行動はBPSDと言われています。
聞き流すことの大切さ
でも、書きましたが、BPSD(問題行動)は対応方法によって改善することが比較的多くみられます。
私見ですが、BPSD(問題行動)への対応方法は、2種類に分けられると考えています。
①薬物療養
②介護者の対応改善
です。
どちらかだけでもうまくいくこともありますが、どちらも必要であることが多い様です。
①薬物療法について
認知症の治療薬であるメマンチン(メマリー)や、抗精神病薬(リスパダール、セロクエルなど)、抑肝散(漢方薬)などにより改善が見られます。
副作用が少ない順でいくと、抑肝散→メマンチン→抗精神病薬の順となりますが、効果はその逆となります。
実際のところ、抑肝散だけで改善することは少なく、メマンチンを使ってみて、不十分であれば抑肝散を併用するか、症状が強ければ抗精神病薬を用いることになります。
副作用の観点から、抗精神病薬はできるだけ用いたくはないのですが、
介護負担を軽減することも認知症治療の一環
であると考えているので、介護者の負担度合いを聞きながら、必要に応じて投与します。
ただし、薬物療法だけで症状を完全にコントロールすることは困難です。
②介護者の対応改善
よくある事ですが、物忘れによって同じことを何度も言う、同じ失敗をするなどの問題が出現すると、介護者はそれについて注意して改善を求めようとします。
しかし、認知機能が低下しているために、患者さんは改善することができません。
すると、
失敗する
↓
注意される
↓
患者さんが嫌な気持ちになる
↓
注意された内容は覚えていないけれど、イライラだけは残る
↓
喧嘩になる
ということが起こります。
この流れを断ち切れる場所が一か所だけあります。
それは、
失敗する
↓
注意される
↓
患者さんが嫌な気持ちになる
↓
注意された内容は覚えていないけれど、イライラだけは残る
↓
喧嘩になる
注意されなければいいわけです。
注意されなければいいというのは、注意されないように患者さんが気を付けるという意味ではありません。
注意したくなっても、注意しないのです。
ちなみに、注意しても注意された内容は忘れてしまうので、あまり効果はありません。
もし、効果があれば、同じことを何度も注意する事にはならないはずです。
さて、「注意することをこらえる方法」について、お話します。
まず、注意したとしても、それが実ることは殆どないということを覚えておいてください。
認知症患者さんは、残念ながら認知機能は日を経るごとに低下していきます。
ということは、
今日より認知機能が良い日は来ない
ということです。
ですから、出来ないことや失敗について、注意を促しても、実らないどころか注意を促さなければならない場面がどんどん増えていきます。
ですから、
『出来ないことを注意する』⇒『できる事をほめる』
という発想の転換が必要になります。
そして、出来ないことをやらせるのではなく、できる事をやってもらうようにします。
同じことを何度も言う、間違ったことや勘違いをすることについてですが、悪い言い方になりますが、まともに聞いてはいけません。
真面目に聞くと、うんざりしたり、訂正したくなるのが心情です。
ですから、
ちゃんと聞いているふりをして、適当に聞き流してしまうことも必要です。
間違ったことや勘違いについても、よほど害がない限り、訂正する必要はありません。
ベテランになると、昔の自慢話などを上手に引き出して、気分よく喋らせることができるようになることもあるようです。もはや達人の域ですね。
ただ、介護者だって人間なので、我慢の限界というものがあります。
介護者が上手に対応するためには余裕が必要です。
その余裕を作り出すために、日中預かってくれるデイサービスや、短期の宿泊サービスであるショートステイなどを利用するのも大切です。
また、薬の力を借りることも大切な方法です。
夜、起きだしてきて困るので、寝る前だけ薬を使って介護負担の軽減を行うこともありますし、もっと激しい場合には日中から薬を使うこともあります。
薬によって完璧にコントロールすることは不可能ですが、症状を緩和することによって介護負担を軽減することは可能です。
介護負担が大きいと思ったら、主治医やケアマネージャーに相談すると、解決の糸口が見つかるかもしれません。
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