当院での物忘れ外来受診の流れ
当院では、水曜日の午後に物忘れ外来を行っています。
当院では、水曜日の午後に物忘れ外来を行っています。
もの忘れについて少し興味があるという方は、長谷川式やMMSEといった、簡易的なもの忘れの評価法を知っている方も少なくありません。
この二つの検査は、国内で広く使われており、若干の違いはありますがおおむね同じ検査です。
脳の様々な機能が評価できますが、コンパクトで短時間ですむという特徴があり、日常の診療でも良く使われています。
しかし、外来診療を行っていると、MMSEの点数は低下していないけれど、以前より認知症が進行したと感じる介護者の方が比較的良くみられます。
特に多いのが、テレビのリモコンや家電の使い方が分からなくなったとか、切符の買い方が分からなくなったけれど、点数は下がっていないという例です。
私は、MMSEに複雑なものの使い方を評価する項目がなく、うまく認知機能を反映できないために、このような乖離が起こるのではないかと考えています。
そのため、私は外来でMMSEを行った後に、介護者の方に日常生活で出来なくなったことが増えていないか尋ねるようにし、検査で反映されない部分を補っています。
もし、これらの簡易的な認知機能テストであまり点数の低下がなくても、違和感を感じることがあれば、いつからどんなことができなくなったか記録しておくと、認知症の進行の評価に役立つと思います。
認知症を診断するために、頭部のMRIを行うことはほぼ必須であるといえます。
認知症の最大の原因であるアルツハイマー病患者さんでは、海馬の萎縮が目立つため、MRIで萎縮の有無を確認します。
脳血管性認知症であれば、脳梗塞があるため、これもMRIでよくわかります。
頭部MRIが、認知症を発症している患者さんにとって有用であることは、疑いの余地はないと思います。
では、発症予測という意味ではどうでしょうか。
フランスで行われた研究についてご紹介します。
1721人の認知症でない人にMRIを行い、さらに10年間追跡して、その間に認知症を発症したか調べた研究があります。
この研究では、認知症発症前のMRI画像を、統計的に解析しています。
アルツハイマー病でみられる海馬の萎縮についても検討されています。
しかし、残念ながら、認知症発症前に行われたMRIをもとに、10年のうちに認知症を発症するかどうかを予測することはできませんでした。
やっぱりそうだろうなというのが、率直な感想です。
アルツハイマー病に限って言えば、海馬の萎縮が目立つのは、認知症発症の時期とほぼ一致しているという印象です。
もし、発症を予測するのであれば、アミロイドβ(Aβ)を検出する検査の方が、おそらく有用であると思われます。
(アルツハイマー病の脳の変化は発症20年前から)
今回は、神経心理検査のうちMMSEについて解説します。
MMSEとは、Mini Mental State Examination の略で、長谷川式と並んで、認知症を調べるのに大変よく用いられます。
項目は以下の通りとなります。
_____________________________
・日時(各1点):時間の見当識を評価
今年は何年ですか。
いまの季節は何ですか。
今日は何曜日ですか。
今日は何月ですか。
今日は何日ですか。
・現在地(各1点):場所の見当識を評価
ここは何県ですか。
ここは何市ですか。
ここは何病院ですか。
ここは何階ですか。
ここは何地方ですか。
・記憶(各1点):作業記憶(ワーキングメモリー)に関係
相互に無関係な物品名を3個聞かせ、復唱させる。
例えば ①さくら ②ねこ ③電車
すべて言えなければ6回まで繰り返す。
・計算(各1点)
100から順に7を引く。5回繰り返す。
正解は 93→86→79→72→65
・遅延再生(各1点):近時記憶(少し前のことを覚えておく能力)
記憶してもらった単語を復唱させる。
①さくら ②ねこ ③電車
・物品呼称(各1点):健忘失語などでできなくなる。
時計と鉛筆を見せて、物の名前を答えさせる。
・復唱(1点)
次の文章を繰り返す。1回のみ行う。
「みんなで、力を合わせて綱を引きます」
・言語理解(各1点)
次の3つの命令を口頭で伝え、すべて聞き終わってから行ってもらう。
①「右手にこの紙を持ってください」
②「それを半分に折りたたんでください」
③「机の上に置いてください」
・文章理解(1点)
次の文章を読んで実行してもらう。
「眼を閉じなさい」
・文章構成(1点)
短い文章を書いてもらう(自発的なものに限る。誤字脱字は構わない)。
・図形描写(1点)
重なり合う5角形を書いてもらう。
_____________________________
30点満点となります。
23点以下を認知症とするという基準がありますが、実際には点数で認知症かどうかを判断するのは適切ではないと考えられます。
例えば、40歳の方であれば、29点から30点取れていないとちょっと心配になりますし、85歳であれば27点くらいでも正常範囲とも考えられます。
23点以下であれば、確かに認知症と考えられますが、24点以上でも正常とは言い難く、日常生活への影響などを考慮して判断する必要があります。
アルツハイマー病では、日付(時間の見当識)と遅延再生(近似記憶)が早期から強く障害されます。
とくに、遅延再生は海馬といわれる脳の一部と強い関連があり、アルツハイマー病によって海馬が萎縮し、機能低下を来たすと遅延再生ができなくなるのです。
遅延再生について、最初は3つのうち1つ2つ思い出せないというところから始まりますが、進行すると、覚えてもらったこと自体を忘れてしまいます(エピソード記憶の欠落)。こういった症状が出た場合には、より強くアルツハイマー病を疑います。
レビー小体型認知症では、遅延再生は比較的保たれますが、図形描写が障害されます。
これは、脳の後頭葉という、視覚中枢(物を見る能力の中枢)が障害され、正確に図形が捉えられなくなることによるものです。
ですから、脳血流シンチグラフィ(SPECT)を行うと、レビー小体型認知症の患者さんでは後頭葉の血流が低下しているのです(参照)。
このように、MMSEは合計点数よりも、どこが出来なかったかを評価することで、認知症のタイプを大まかに調べることができます。
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認知症診断における血液検査の意義をご説明します。
一見、血液検査は認知症と関係ないように思われるかもしれませんが、実はとても大切です。
私はすべての患者さんに血液検査を行っています。
血液検査といえば、貧血・肝機能・腎機能・コレステロールなどを調べる印象が強いと思います。
当然、認知症診断の時もこれらを調べます。
とくに、アルツハイマー病や脳血管性認知症では、糖尿病をはじめとする生活習慣病が、認知症を悪くする可能性が指摘されています。
ですから、これらの有無を確認するためにも血液検査は必要なのです。
甲状腺機能低下症でも、認知症様の症状が起こることがあります。
特に、高齢女性の患者さんでは甲状腺の機能が低下していることが非常に多く、治療によって認知症様の症状が改善することがしばしばあります。
ビタミンB12や葉酸の欠乏によっても、認知症様の症状が現れることがあります。
このビタミンB12というのは、神経細胞が生きていくうえで大変重要なビタミンです。
なので、欠乏すると神経細胞が障害されてしまうのです。
特に、胃を全部摘出した患者さんで、ビタミンB12を投与されていない場合は、かなりの確率で欠乏しています。
早期に気がつけば治療効果は高いのですが、進行してしまうとなかなか改善しないばかりか、亜急性連合性脊髄変性症といって手足の麻痺などが出現することがあります。
認知症とは直接関連しませんが、高齢な患者さんは多くの病気を抱えていることが多く、実際に血液検査を行うと、思わぬ合併症に出くわすことがあります。
前述のとおり、生活習慣病と呼ばれるものは、認知症を悪化させたり、進行を早めるものがあります。
ですので、認知症だけを診るのではなく、合併症も合わせて診ていくことで、より良い状態を長く維持できるように努める必要があります。
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今回は、認知症の検査についてご説明します。
病院や患者さんの状態によって行う検査に違いがありますのでご注意ください。
・血液検査:甲状腺やビタミン欠乏、生活習慣病が隠れていないかチェックします。
・神経心理検査:Mini Mental State Examination(MMSE)や長谷川式といったもの忘れの検査を行います。さらに詳しく調べるときには、Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive subscale(ADAS-cog)やウエクスラー記憶検査(WMS-R)といった複雑で時間のかかる検査を行うことがあります。Geriatric Depression Scale(GDS)などのうつ病検査も併せて行うことがあります。
・頭部MRI:脳の形の異常を調べます。アルツハイマー病では海馬の萎縮がみられます。また、かなり微小な脳梗塞も見つけることができます。併せてMRAという脳血管の検査を行うこともあります。この検査では、脳に詰まりそうな血管がないか、また、動脈瘤がないかが分かります。閉所恐怖症、じっとしていられない患者さん、体内に金属やペースメーカがある、また、磁石付の特殊な入れ歯などがあるとできないことがあります。その時は頭部CTで代用します。
・VSRAD(ぶいえすらど):頭部MRIの結果をコンピューター解析して、海馬がどのくらい萎縮しているかを調べる検査です。萎縮の度合いが数値化されます。
・脳血流シンチグラフィ:ECD-SPECT(いーしーでぃーすぺくと) や IMP-SPECT(あいえむぴーすぺくと) と呼ばれる脳の血流を調べる検査です。MRIと違い、脳の機能を評価することができます。アルツハイマー病やレビー小体型認知症では、それぞれ特有の場所の血流低下がみられます。
・MIBG心筋シンチグラフィ:レビー小体型認知症が疑われるときに行う検査です。心臓の交感神経の働きをみる検査ですが、レビー小体型認知症患者さんでは、この検査で異常が見つかることが大変多いです。
・心電図:アルツハイマー病やレビー小体型認知症の治療薬は時として脈を遅くする可能性があるため、あらかじめ心電図をとっておきます。
多くの病院で、血液検査や心電図などを除き、予約検査になります。
一つ一つの検査にある程度の時間がかかるため、何日かに分けて検査を行うことになります。
これらの検査を行うことによって、どんなタイプの認知症なのかを見極め、治療につなげていきます。
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