アルツハイマー病の自覚症状
アルツハイマー病患者さんに、「ものわすれの自覚症状はない」とされています。
実際に、ある程度進行した患者さんでは、自覚症状は乏しいと思われますし、アルツハイマー病発症の2~3年前から、自覚症状がなくなるという報告もあります。
(Robert S Wilson, Patricia A Boyle, Lei Yu, et al. Temporal course and pathologic basis of unawareness of memory loss in dementia.Neurology. 2015 Aug 26; pii: 10.1212/WNL.0000000000001935.)
また、自身の経験からも、アルツハイマー病に自覚症状がないとするのは、おおむね正しいと考えられます。
しかし、ここからは私見ですが、物忘れの自覚症状があるからアルツハイマー病ではないとするのは、正しくないのではと思います。
経験した中にこんな患者さんがいました。
①
家族も本人も、もの忘れが気になって受診しました。
確かに軽い物忘れがありましたし、正常とするに不安が残ったために、精密検査を行いました。
脳のMRIでは軽度ですが海馬の萎縮があり、脳血流シンチグラフィではアルツハイマー病に特徴的な血流の低下が認められました。
診断として、軽度認知障害(MCI)とするのですが、実際にはアルツハイマー病のごく初期であると考えられました。
②
「私は、物忘れがある」ということを数年前から訴えていたとのことです。
受診時にも、「もの忘れくらいありますよ」という具合でした。
実際に明らかな認知機能の低下が認められ、アルツハイマー病と診断できました。
1年2年とたつごとに、認知機能の低下は目立ってきましたが、本人の「もの忘れはある」という訴えは変わりませんでした。
しかし、よくよくみてみると、その訴えに深刻さはなく、患者さん本人は、本当にそれで困っているという様子はありませんでした。
①の患者さんは、病状がきわめて軽かったために、物忘れの自覚があったと考えられます。
この時点で来院され、治療が開始できたのは、認知機能の維持を行う上で良かったと考えられました。
②の患者さんは、実際には自覚はなく、ただ、口癖のように「もの忘れはある」と言っていたようでした。
訴えに深刻さがなく、物忘れによって困った場面を具体的に挙げられなかったところからも、そう考えられました。
アルツハイマー病には自覚症状がないというのは、大筋では正しいですが、これらの経験から、自覚症状がないからアルツハイマー病ではないとするのは少々危険なのではないかと思います。
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