2015年10月27日 (火)

アルツハイマー病の自覚症状

アルツハイマー病患者さんに、「ものわすれの自覚症状はない」とされています。


実際に、ある程度進行した患者さんでは、自覚症状は乏しいと思われますし、アルツハイマー病発症の2~3年前から、自覚症状がなくなるという報告もあります。
(Robert S Wilson, Patricia A Boyle, Lei Yu, et al. Temporal course and pathologic basis of unawareness of memory loss in dementia.Neurology. 2015 Aug 26; pii: 10.1212/WNL.0000000000001935.)

また、自身の経験からも、アルツハイマー病に自覚症状がないとするのは、おおむね正しいと考えられます。


しかし、ここからは私見ですが、物忘れの自覚症状があるからアルツハイマー病ではないとするのは、正しくないのではと思います。



経験した中にこんな患者さんがいました。




家族も本人も、もの忘れが気になって受診しました。

確かに軽い物忘れがありましたし、正常とするに不安が残ったために、精密検査を行いました。

脳のMRIでは軽度ですが海馬の萎縮があり、脳血流シンチグラフィではアルツハイマー病に特徴的な血流の低下が認められました。

診断として、軽度認知障害(MCI)とするのですが、実際にはアルツハイマー病のごく初期であると考えられました。




「私は、物忘れがある」ということを数年前から訴えていたとのことです。

受診時にも、「もの忘れくらいありますよ」という具合でした。

実際に明らかな認知機能の低下が認められ、アルツハイマー病と診断できました。

1年2年とたつごとに、認知機能の低下は目立ってきましたが、本人の「もの忘れはある」という訴えは変わりませんでした。

しかし、よくよくみてみると、その訴えに深刻さはなく、患者さん本人は、本当にそれで困っているという様子はありませんでした。



①の患者さんは、病状がきわめて軽かったために、物忘れの自覚があったと考えられます。

この時点で来院され、治療が開始できたのは、認知機能の維持を行う上で良かったと考えられました。



②の患者さんは、実際には自覚はなく、ただ、口癖のように「もの忘れはある」と言っていたようでした。

訴えに深刻さがなく、物忘れによって困った場面を具体的に挙げられなかった
ところからも、そう考えられました。



アルツハイマー病には自覚症状がないというのは、大筋では正しいですが、これらの経験から、自覚症状がないからアルツハイマー病ではないとするのは少々危険なのではないかと思います。

2015年5月31日 (日)

認知症の早期発見のために

認知症の早期発見の重要性についてはこちらへ。


認知症を早期発見するのは、案外難しいと考えています。

その理由を以下にあげます。

①自覚症状に乏しい

②多くの認知症はゆっくり進行するため、認知機能の低下に気がつきにくい

③認知症を発症しても、初期であれば家庭内のことはおおむね問題なくできるため、発症に気がつかない

④多少あやしいところがあっても年齢のせいにしがち

⑤早期の認知症は症状が軽く、かかりつけ医(認知症が専門でない)も診察時間内に見抜くのは困難



では、早期発見のためにはどのようなことに気を付ければよいでしょうか。


認知症の原因として最も多いアルツハイマー病では、早期から日付が分からなくなる傾向があります。
また、少し前のことを思い出すことが苦手になります。
ですから、今日の日付(できれば年・月・日・曜日)や、昨晩の献立などを聞いてみるというのは方法です。
ただし、献立についてはすべていえる必要はなく、高齢者であれば主なものが出てくれば良いと思われます。

認知症のもの忘れで特徴的なのが、エピソード記憶(体験したこと)の欠落です。
晩御飯を食べたはずなのに、食べたかどうかが分からないということがあれば、それはエピソード記憶の欠落です。
エピソード記憶の欠落があれば、認知症である可能性は高くなると考えられます。

認知症では物の名前が出にくくなるため、「あれ」や「それ」といった代名詞が増える傾向にあります。
日常的につかうものにおいて、代名詞を用いる場合は要注意です。
ただし、かかわりの深くない人物(テレビに出てくる人など)の名前は年齢とともに出にくくなるので、人の名前が出てこないからと言って認知症であるということは言えないと思われます。

料理の献立を考えることはとても複雑なことです。
レパートリーが減ったとか、料理にかかる時間が長くなったとか、味付けがおかしくなったということがあれば、認知機能の低下を疑います。

同じ話を何度もするというのも症状の一つであることがあります。
これは、以前に話をしたという記憶がなくなってしまうためと考えられます。

会話の流れについてこれない、取り繕いがみられる、などという症状も見られるようになります。


いずれも、この症状があったら即認知症だというものではありませんが、認知症を早期に発見するためには、これらの症状がないか注意深く観察する必要があります。

そして、これらのサインを見つけたら、物忘れ外来に一度ご相談を。

2015年5月 7日 (木)

認知症患者さんの住む世界

私たちは、日常生活を送るうえで特別意識しなくても、時間の流れや、自分がどこにいるか、また、過去にあった出来事などを覚えておくことができます。

これらの機能の重要性は、日常あまり気にされることはありませんが、認知症患者さんのように、これらの機能が失われてしまうと日常生活をおくることが大変困難になります。


自分のいる場所がわからなくなる(場所の見当識障害)
行ったことがない場所に、地図も持たずに出かけるようなものです。
どっちに行って良いか全くわからず、迷子になってしまいます。

時間が分からない(時間の見当識障害)
今が朝なのか夜なのかもわからず、時計を見てもすぐに何時だかわからなくなってしまいます。
日付も季節もわからず、適切な服を選ぶことも難しくなります。

記憶障害
ある時を境に、新しい記憶がインプットされにくくなっているため、極端に言えば最後に覚えたことが最新の出来事です。
2010年までの出来事までしか記憶になければ、患者さんにとって今は2010年となってしまいます。
2015年の今に5年分タイムスリップしたようなものです。

理解能力の低下
周りの人の会話についていけなくなり、何を話しているのかわからなくなってきます。


おそらく、ある程度しっかりした認知症患者さんは、言葉も場所もわからない外国に、突然タイムスリップして混乱している状態に近いのではないかと考えます。

http://kumeiin.jp/

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